章ごとの聖書の物語。

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最近の物語

詩篇 72 旧約聖書

老書記官が綴るソロモンの祈り

巻物の羊皮紙は、長年の手垢で縁が琥珀色に変わり、広げると乾いた草のようなかすかな匂いがした。エルアザルは硯に水を垂らし、固まった墨をゆっくりとすりつぶしながら、...

ヨナタンの小さな一歩

潮の匂いが深く染みついた手で、ヨナタンは網の破れを繕っていた。指先はすでに冷たさで感覚を失いかけ、まるで他人の手のようだった。七十三年、この港で生きてきた。漁師...

詩篇 8 旧約聖書

羊飼いの夜、星と孤独と

夜は、羊の群れの上に深く静かに降りていた。日の最後の残照が西の山々の稜線を赤く染め、やがて紫色へ、そして墨水を打ちこんだような紺碧へと変わる間も、少年エリアブは...

ヨブ記 18 旧約聖書

高ぶる者の灯火は消える

夕暮れが、砂漠の崖を赤く染めていた。集会の囲いの外、熱気が砂からゆらめき、残りの日差しは長い影を落としていた。長老ビルダドの声は、その影のように冷たかった。彼は...

悔いと契約の更新

その日、エルサレムの城壁の陰は、午後になっても冷たさを失わなかった。漆喰の新しい匂いがまだわずかに漂う広場に、荒布をまとい、頭に塵をかぶった人々の群れが、しだい...

軛を砕く祈り

むさ苦しい雑草が宮殿の石庭を覆い始めていた。北イスラエルの王、ヨアハズは、朝もやがサマリアの谷間からゆっくりと立ち上るのを、露台から眺めていた。彼の父、イエフの...

北の盟主ハツォルの陥落

日は白く濁り、北からの風がカナンの丘陵に冷たい息を吹きつけていた。ヨシュアは、その風の中に、以前とは異なる戦いの気配を感じ取った。南の諸王を撃ち破り、中部の山地...

申命記 13 旧約聖書

試練の丘の決断

夕暮れがギルガルの丘を縁取った頃、エリアフは最後の羊を囲いに入れ、その背中に刻まれた古い傷がうずくのを感じていた。西風がオリーブの木々を通り抜け、砂と乾いた草の...

ベールに隠された宿命の絆

日は少し曇っていて、カナンの地には砂ぼこりが舞う風が吹いていた。ユダは兄弟たちのもとを離れ、アドラム人ヒラという男のところへ身を寄せていた。あるとき、彼はカナン...

神の子と人の娘、そしてノアの箱舟

地上に人の数が増え始めた頃、ある日、男たちの娘たちが穀物を摘みに野に出ていた。陽射しは穏やかで、風は草の匂いを運んでくる。彼女たちは笑い声を上げ、何も知らずにい...

試練の海に咲く忍耐の花

その日も海は鉛色をしていた。潮風が渦巻く長崎の岬の村で、ヨシオは荒れた畑を耕していた。鍬の柄には手のひらに馴染んだ窪みができており、振り下ろすたびに鈍い音を立て...

テサロニケの信徒への手紙一 4 新約聖書

テサロニケの夜明けを待つ

エーゲ海から吹いてくる風が、テサロニケの港に塩の香りを運んでくる午後だった。アンブロシオスは、皮革なめし場の仕事を終え、肘まで真っ黒に汚れた腕を洗いながら、ふと...

仮の幕屋、永遠の家

工房には木屑の匁いが漂っていた。大工マタイは、古い肘掛け椅子の修繕に取り組んでいた。七十歳を過ぎた今も、彼の手は木の肌理を正確に読み取り、鑿を慎重に動かす。しか...

アレクサンドロスと恵みの泉

その日、エルサレムは鉛色の空を背負っていた。アレクサンドロスは、舗装石の隙間から顔を出す雑草のように、この街に根を下ろして三十年近くになる異邦人だった。工房には...

安息日の宴と招かれざる客

その日は安息日だった。エルサレムへ向かう道すがら、イエスはあるパリサイ派の指導者から食事に招かれていた。秋の日差しは斜めに傾き、石畳に長い影を落としていた。弟子...

隣国の嘲笑と神の裁き

ヨルダン川の東、風が乾いた土を巻き上げる高原で、預言者エゼキエルの言葉は、石のように重く、鋭く響いた。彼はバビロンの河の畔に座していたが、その心の目ははるか離れ...

バビロン陥落の朝

その日、暑気がバビロンの城壁を揺らしていた。空は青く、しかし鈍い鉛色を帯び、遠く砂漠から熱風が運ばれる予感に、街の騒めきにもかかわらず、一部の者の胸には漠然とし...

陶工の手と主の約束

その日、エレミヤの足は、何故か陶工の里へと向かっていた。エルサレムの喧騒を背に、キデロンの谷を下り、町の外れの窯が集まる一角へ。道すがら、足元の粘土質の土が乾き...